脳の制御システム
脳の制御システム
私たちの脳は成長に伴い下記の三段階の進化を遂げます。
1.シーケンス制御
2.フィードバック制御
3.フィードフォワード制御
これはテニスだけではありません。
全てのスポーツにおいて共通です。
つまり、スポーツが短時間で上達する為には、この三段階の進化をできるだけ速くクリアする必要があるのです。
さて、それでは三段階の進化の過程についてそれぞれご説明します。
シーケンス制御
シーケンス制御とは「知る」学習です。
物事の成長はまず、「知る」事から始まります。
「必要な知識を得る」と言っても良いでしょう。
また、シーケンス制御は一方通行の制御とも言えます。
例えば、自動販売機はボタンを押すと必ず商品がでてきます。
そこには状況ごとの対応や調整はありません。
ただ押されたボタンに反応し、商品が出てくるだけです。
このようにシーケンス制御は一方通行の制御システムなのです。
私たちの脳も第一段階は「知る学習」から始まります。
すなわち「これはこういう物なのか!」と一方通行的に知る事から始まるのです。
フィードバック制御
フィードバック制御は一言で言うと「味わう学習」です。
第一段階のシーケンス制御が「知る学習」であったのに対し、第二段階は物事を深く掘り下げる為に「今どのような事が起こっているのか?」「今どのような状況なのか?」を感じる段階なのです。
また、それは目標に近づく為に調整を加える段階でもあります。
料理に例えると、ある料理を食べてその味を知ります。
これがシーケンス制御の段階です。
そして、次にその料理を作ります。
その味と同じ味を再現するには、当然味見が必要になります。
この味見の段階がフィードバック制御の段階です。
味見をする事によって「目指す味と現状の味の違い」に気づく事が出来ます。
そして、微調整を繰り返す事で段々と目指す味に近づける事が出来ます。
そして、最後にはその味をイメージすれば、同じ味を再現できるようになります。
また、別の例ではエアコンはまさにフィードバック制御を使っています。
エアコンは27℃に設定されると、現在の温度を測定し、その温度に対して「暖かくしたほうがよいのか?」それとも「冷やしたほうがよいのか?」の修正を加えて空気を出しています。
そうして、一定の目標にあわせようとしているわけです。
このようにフィードバック制御は目標に近づくようにする為に現状を把握、分析し、修正を加えて次の対処をする段階のことをいいます。
私たちの脳もこれと同じ段階があります。
テニスは最初はボールの事が全く分かりません。
「どれぐらいの強さで打てばどれぐらいボールが飛ぶか?」
「どれぐらいの角度で打てばボールがどれぐらい上がるのか?」
このようなボールの感覚が全く分かりません。
ところが、脳は経験する事で自動的にフィードバックし、必要な情報を記憶して行きます。
そして、ある程度の経験値が記憶されるとイメージするだけで望むボールを打つ事が出来るようになります。
フィードフォワード制御
フィードフォワード制御とは未来制御のことです。
私たちの脳はフィードバック制御を繰り返し練習しているとある時、予測制御出来るようになります。
例えば。
自転車は平らな道で乗れるようになると、でこぼこの道や砂利道でも乗れるようになります。
つまり、状況が変わっても予測して対応が出来るわけです。
砂利道などは状況を感じてから対応していたのでは遅れてバランスを保つ事が出来ません。
ところが、脳はちゃんと予測して対応してくれるわけです。
テニスも同様です。
フィードバック練習を繰り返し行っていると、突然、違うボールが飛んできても、そのボールに無理なく対応出来るようになります。
プレーヤー自身は予測している自覚はありませんがこれは脳のフィードフォワード制御による物です。
実は上級者達はこのフィードフォワード制御の段階でプレイしています。
テニスは同じようなボールが飛んで来る場合はそれなりにコントロール出来るが、急に違うボールが飛んで来ると対応出来ない段階があります。
これはフィードバック制御の段階です。
フィードバック制御の経験値がまだ足りていない為に、フィードフォワード制御出来ないわけです。
初級者レベルはこの段階と言えるでしょう。
この段階では繰り返し「味わう学習」つまり、「フィードバック制御」の練習を繰り返す必要があります。
ところが、中級レベルから上級レベルになると変化のあるボールが突然飛んできても対応が出来るようになります。
これがフィードフォワード制御の段階です。
上級者たちはこの制御を使いテニスをプレーしています。
フィードフォワード制御の段階に入る為には、質の高いフィードバック練習を繰り返す必要があります。
その為には集中して五感を使う事が大切です。
眼や耳、触覚などの感覚を研ぎ澄まし、精度の高い情報を記憶する事で脳に記憶する情報の質を高めます。
その結果、より短時間でフィードバック制御の段階を卒業する事が出来ます。